息もできないほど
息もできないほど表紙 著者:北川とも
挿絵:白雪りる
発行:2000年6月
定価:900円(税込)
ISBN:4-89601-491-X C0293 \857E



「親失格だ。自分の息子に気が狂いそうなぐらい嫉妬していた。お前が愛しい。 このまま離したくないぐらい」直属の上司である筧と激しい想いを交わす椎名。 そんな椎名に、半端じゃない想いをぶつけてくるもう1人の男、秀二。 彼は筧の息子で、椎名の想い人が自分の父親であることを知らない。 秀二の気持ちを知っていても、想いを止められない筧と椎名。 真実が見えたとき、きれいごとではすまされない3人の想いが複雑に絡み合う。 彼らの激しい恋の行方は――。

「――どうかした?」
 ワンルームの部屋に通されても、昌樹はじっと秀二を見つめ続ける。昨日言っていたように、足は少し引きずっていた。
「い、や……。元気そうだから……」
「もっと落ち込んでると思ってた? 親父と、片思いの相手ができたって知って」
 顔を強張らせる。秀二に示され、ベッドの近くに置いてあるクッションの上に座る。
 秀二は開いていた窓を閉め、エアコンを入れる。冷蔵庫から缶ジュースを出して昌樹に手渡してくれた。飲む気がせず、テーブルに置く。
 秀二は少し離れたところに座り込み、昌樹のことを見据えてくる。
「俺が入院してから、親父とできたんだろ」
 表現に抵抗はあったが、頷く。
「俺の見舞いに来る前とか、来た後とかに、親父と部屋でやりまくってたわけだ」
「そんな言い方はやめろ」
「いまさら、上品ぶるなよ。事実だろ、椎名さん」
 秀二を睨みつけると、嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ゾクゾクするなあ、椎名さんのその目。俺を甘やかしてくれるときの目もいいけど、その目も好きかも」
 冷静になろうと、大きく息を吐く。秀二の挑発に乗りそうになる自分の姿を自覚したのだ。
「お前、これからどうするつもりだ」
「どうするって?」
「いつまでも、友達のところにいるわけにはいかないだろう」
「俺に、親父のところに戻れっていうわけ」
 言葉に詰まる。昌樹には、そのことに関して強く言える権利はなかった。
 髪をかき上げ、首を左右に振る。
「やっぱり、筧さんと話したほうが――」
「俺は椎名さんと話したいんだよっ」
 秀二がふてくされたような顔をする。この顔は、昌樹もよく知っている顔だ。だから、這い寄って側まで来られても、警戒心を持てなかった。
「だったらお前は、どうしたいんだ」
「どうしたらいい?」
 甘えた声で言われ、肩から力を抜く。にじり寄ってきた秀二が顔を近づけ、やはり甘えた表情で昌樹をうかがってくる。
「……筧さんに、どこにいるかぐらい教えろよ。心配してるんだから」
「なら、電話して、元気なことぐらい、親父に教えてやるか……」
 間近で秀二がにやっと笑う。
 背筋に冷たいものを感じたとき、昌樹は腕を掴まれて引き寄せられると、うつぶせで床の上に乱暴に押さえつけられた。
「秀二っ」
「椎名さん、ほんと俺に甘いね。好きにしてくれっていうぐらい、隙だらけ。俺も警戒されてたらどうしようかと思ってたけど、めちゃくちゃ楽だよ」
 昌樹の背に秀二が馬乗りになる。すかさず両手を取られて背に回されると、手首に紐が巻き付けられた。
「やめろっ、なにしてるんだっ」
「あんたが、親父といつもしてること」
 暴れようとすると、いきなり髪を鷲掴まれた。痛みに呻き声を洩らすと、耳元に唇が寄せられた。
「ほら、ベッドに行けよ」
 髪を引っ張り上げられ、嫌でも体を起こすことになる。ベッドに引きずり上げられ、秀二がのしかかってきた。
「んうっ」
 唇を塞がれ、舌を差し込まれる。着ているシャツを引き裂かれ、ズボンを下ろされそうになり、昌樹は必死で抵抗する。唇が離されて、頬を殴られて。
「じっとしてろよ、椎名さん。俺、顔傷つけるなんて、本当は嫌なんだから」
 秀二は容赦はしないと、本能で思い知らされたが、それでも抵抗しないわけにはいかない。
 暴れると、立て続けに頬を殴られ、その後、腹部も殴られた。昌樹は咳き込む。そして、絶望的な気持ちで下肢が剥かれたのを感じた。
「へえ、これが、椎名さんか」
 無理矢理、両足の間に手が入り込み、掴まれる。羞恥と痛みで唇を噛むと、再び唇を塞がれた。
 秀二に触れられたところすべてが、ズキズキと痛む。それに、背とベッドの間にある、縛られた両手首もだ。二人分の体重がかかり、たまらず呻くと、気づいたように秀二が昌樹の腰の下にクッションを差し入れた。それでいくぶん楽になる。
 昌樹は背を反らして秀二の下から抜け出そうとするが、まったく効き目はない。
 馬乗りになった格好で秀二がTシャツを脱ぎ捨て、ジーパンの前を開く。見たくなくて昌樹は顔を背け、体をよじる。
「ほら、じっとしてろよ」
 肩を掴まれ押さえつけられる。再びのしかかかられ、首筋を舐め上げられた。
「やめっ……。離せ、秀二……」
 胸の敏感な部分を含まれ、痛いほど吸われる。上目遣いの目とぶつかる。昌樹に見せつけるように、突起を噛まれながら引っ張られる。小さく呻くと、打って変わった丹念さで、舌先で転がされ舐められる。
 両足の間に体を割り込まされ、秀二の前で、屈辱的な格好をと取らされる。
「くっ」 
 まったく反応していないものを掴まれ、手荒く擦られる。生まれる感覚が快感とは程遠いものだと、秀二にも分かったらしい。
「どうしてだよ。親父には、感じて見せてやってるんだろ?」
「も、やめ……。嫌だ、こんなのは」
 秀二の手が離れ、一瞬ほっとする。だが次の瞬間、自分の顔を見下ろしていた秀二が頭を下ろしたのを見て、足をばたつかせる。
「嫌だっ。やめろ、秀二っ」
 秀二は答えず、昌樹の両足の間に顔を埋めた。昌樹のものが、生暖かく濡れた感触に包まれる。体を波打たせて逃れようとするが、執拗に秀二の愛撫が絡みついてくる。濡れた音が聞こえてくるようになると、羞恥と屈辱で気を失いそうになる。耳を塞ぎたかったが、それすらできない。
「んあっ……」
 腰から下に力が入らず、両足を開いたまま腰を揺らしてしまう。先端をきつく吸い上げられてから、秀二の手に抜かれる。
「はっ、あぁ――……」
 体を震わせてから、昌樹は堪え切れずに達してしまった。腰を浮かせると、秀二をの口腔に深く呑み込まれる。快感とは別のもので涙が滲むと、顔を上げた秀二によって、その涙を拭われた。
「めちゃくちゃよがってたね、椎名さん」
 睨みつけると、薄く笑われる。
「無理だよ、いくら睨んだって。どうにもならないよ」
 秀二は指を舐める。それを見た昌樹は息を詰める。
 濡らされた指を強引に後ろに含まされて、きつく目を閉じると、耳元に秀二の唇が押し当てられ、熱い息遣いが直接注ぎ込まれてくる。
「い、やぁっ……」
「すげえ、狭い。指一本がやっとじゃん。もっと緩めてよ。もう一本、突っ込んであげるから」
 昌樹に見せつけるように二本の指に唾液を絡めて、秀二は容赦なく挿入してきた。すぐさま抜き差しが始められ、粘膜を擦り立てられる音が昌樹の耳に届く。
「分かる? 椎名さんの中、ぐちゅぐちゅ言ってる。擦る度に締め付けてきてさ。いやらしいよなあ。嫌だって言いながら、こんなに熱くなってる」
 感じることをそのまま言葉にして、秀二は囁き続けてくる。やめてもらいたいが、指を蠢かされると、昌樹はどうしようもなかった。腰を震わせ、微かに声を洩らす。
 ジーパンがベッドの下に落とされた音がする。その瞬間が来ると思った昌樹は、ベッドから身を乗り出して逃れようとする。髪を掴まれて引き戻された。
「じっとしてろっ。親父にはいつもさせてるんだろっ」
「筧さんだからだっ」
 頬を殴られた。怒りを露にした目で、秀二は昌樹を見下ろしてきていたが、ふいに唇だけの笑みをうかべた。
「……そうだ。親父に電話しておいてやらないとな」
「な、に……」
 昌樹の目の前で、秀二は手を伸ばして昌樹の服をまさぐって携帯電話と取り出した。
「親父には、部屋にいろって言って言っておいたんだ」
 秀二が携帯電話を耳に当てる。目が合うと、ほぼ同時に秀二は口を開いた。
「親父? 今は詳しいこと話してるヒマはないんだよ。聞いたら分かる。俺が今、何してるのか」
 昌樹の顔の横に、携帯電話が置かれる。秀二が何をしようとしているのか、昌樹は理解した。
「嫌…だ。頼むから、秀二っ」
「すぐに良くしてあげるよ。俺だって、感じまくってる椎名さん見たいもんな」
 両足を抱え上げられ、反応した秀二のものが後ろに押し当てられる。一気にぐっと挿入されてきた。
「ひっ……」
 痛みが昌樹を襲う。かまわず秀二は侵入を続け、ヌルリとした感触を内部で感じた。
「あっ、あっ、嫌っあぁ」
 抱き締められ、深々と秀二のものを呑み込まされる。嗚咽を洩らし、昌樹は許してくれるよう、懸命に首を横に振って懇願する。顔に携帯電話が押し当てられ、筧の声が聞こえてきた。
『秀二っ、お前、椎名に何してるんだっ。椎名っ、椎名っ』
「かけ、い、さ……」
「すげ……いい。めちゃくちゃ、締め付けてくる」
 秀二の腰がゆっくりと動かされ、内部を押し開かれていく。
「い、やだ……。秀二、頼むから――」
 微かな血の匂いが鼻孔をつく。
『椎名、今どこにいる』
「親父の知らないとこだよ。それに椎名さん、今は話せる状態じゃないから」

挿絵
 わざと抜き差しを大きくして、擦れ合う湿った音を立てる。そんな音まで、秀二は電話越しに筧に聞かせていた。
『秀二、お前っ……』
「俺も、今の親父みたいな気持ちだったんだ。怒りと惨めさと嫉妬……、それに、情けないぐらい興奮した。椎名さんのこと考えて」
 一瞬、秀二が泣いているのかと思った。
 昌樹は意識的を朦朧とさせながらも、秀二の顔を見上げる。汗の浮いた野性味のある顔が、じっと昌樹を見下ろしていた。感嘆したように言われる。
「……中、ヒクヒクしてきた」
 カッとして、顔を背ける。すかさず内奥を強く突き上げられ、悲鳴を上げる。
『椎名っ』
 あごを掴まれ唇を塞がれる。熱っぽいキスに快感めいたものを感じ、吐息を洩らす。
 あまりの状況に、心と体が逃避を始めているのかもしれない。昌樹は少しずつ、体の強張りを解いて秀二を受け入れるようになっていた。そうでないと、秀二の激しさに昌樹自身が壊れてしまいそうだった。
 もっとも敏感な部分を無理矢理とはいえ繋ぎ合っているのだ。昌樹の変化を秀二は感じ取っていた。
「いいよ……、椎名さん。俺のもっと欲しい? すげー締め付けてきてる」
 一度秀二のものが引き抜かれ、筧がするように蕩けた場所を先端で擦られる。昌樹は喉を鳴らしてのけ反る。すぐに深々と貫かれ、抉るように突き上げられる。
「んああっ。あっ、あっ、あぁっ……ん」
 携帯電話を切ってくれと、喘ぐ息の下、秀二に何度も頼む。秀二のほうはもう、電話のことなど忘れたように、動き続ける。
「頼むから、切ってくれっ。なんでもお前の言う通りにするから、筧さんを苦しめないでくれ」
「聞きたくないなら、親父が電話を切ればいい」
『秀二、お前……』
「悔しかったら、ここに来てみろ。少なくも今だけは、椎名さんはあんたのものじゃない。俺のものだ」
 挑発的に秀二が言う。一方で、昌樹はきつく抱き締められ、耳元で、小さく呻くような声で言われた。
「許してよ、椎名さん。俺、ここまでしないと、親父と張り合えないんだ。そこまでしなきゃいけないぐらい、椎名さんのことが好きで、欲しいんだ。……どんな形でも」
 ゆっくりと内奥を突き上げられる。
 すでに、昌樹には逃げようとする気力も体力も、奪い尽くされていた。
「椎名さん、椎名さん――」
 名を呼ばれる度に、熱いものが中で動く。怖々と秀二の手が昌樹のものに触れる。
「……良かった……」
 中から刺激され、昌樹は反応していた。秀二の手が絡みつき、緩やかな突き上げに合わせて刺激される。
「いや、だ……。聞かないでくだ、さ……。筧さん、電話切ってください。お願いだから、聞かない、で――……」
「椎名さん、かんじまくってるんだろ。俺のに、絡みついてくるもん。熱くて、ヒクついてる。こっちもぐっしょり濡れてるし」
 快感という自覚もないまま、昌樹は上り詰めさせられていく。
 いつの間にか甘く掠れた声を上げていた。そして、深く秀二を受け入れてしまう。もう、昌樹にはどうしようもなかった。
「あっ、あっ、んあっ……」
 動きが早くなり、よりはっきりと内部を擦り上げられる。
 囁かれ、それだけは嫌だと昌樹は首を横に振る。秀二は聞き入れてはくれなかった。
「ひぃっ」
「椎名さんっ」
 昌樹が達するのと、秀二の迸りを奥深くに注ぎ込まれるのは、ほぼ同時だった。

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