愛ガアレバ。
表紙 著者:須王かおる
挿絵:真田守
発行:2001年12月
定価:900円(税込)
ISBN:4-89601-555-X C0293 \857E




「子どものくせに、わかったような口をきかないでくれるかな」強引にキスしようとした相手・今泉に刃物のような言葉で修也が振られたのは中学3年の時。それから1年半、その時の傷を残した修也の前に、その想い人・今泉が新任教師として現れる。彼を前に、今まで苦労して抑えつけてきた邪な欲望が湧きあがる。――俺は今泉さんを独り占めしたい。子供だから我慢できないんじゃない。好きだから、我慢できないんだ――今度こそは失敗しない……修也の抑え切れない想いの行方は。

 翌日の夕方、アパートを訪ねてきた修也を、今泉は幾分ホッとしながら迎え入れた。
 今日一日、今泉は自分の方から修也に連絡をしようかどうしようか迷っていたのである。迷っている間に修也が来てくれたし、その雰囲気もいつも通りに戻っている。
 修也は修也で何か心の整理がついたらしい。
「昨日はすみませんでした」
 開口一番に、修也はそう言った。
「俺もいろいろと考えて、だいぶ冷静になりました」
 ダイニングのテーブルを挟んで向かい側に座った修也は、今日はすっかり落ち着いた様子だった。
「昨日は冷静さを失って今泉さんを傷つけたかもしれないって、反省しました、すごく」
「傷つけられたなんて思ってないけど…」
 やはり気持ちを暴露したのは間違いなんじゃないかと、何度も考えた。
「俺を許してくれますか」
「許すも許さないも。昨日は、僕が修也くんの心をかき回しちゃった気がして…。やっぱり修也くんの相手には、僕じゃ駄目なんじゃないかって――」
「俺からまた逃げたくなったんですか」
「違うよ。…あ、いや、結果的には違わないのかもしれないけど」
 修也にとって一番いいことは何なのか、誰かに教えてもらいたかった。
 それに昨晩の新堂の何か知っていそうな素振りも、気掛かりなのだ。
「あのね、修也くん」
 とりあえず、一番最初に大事なことを言っておこう。
「僕は修也くんのことが好きだよ。それを踏まえて聞いて欲しいんだけど」
「あ、やっぱり逃げる気だ」
「そうじゃない。つもり、なんだけど」
 結果として修也にとっては同じことになってしまうのかもしれないので、今泉は自然と弱気な言い方になる。
「例えば、だよ。もし僕達の関係が誰かにバレたりしたら、困る事態になるよね」
「バレなきゃいいでしょう」
「そう言うとは思ったんだけど」
「それにバレたとしても、俺は平気です」
「そう言うとも…思ったんだけど」
 修也はあまりにも真っ直ぐに自分の信じる道しか見ていないので、その他の現実をどうやって視野に入れてもらおうかと、今泉は悩むのだ。
「例え修也くんが何が起きても大丈夫だって言っても、僕は困る。修也くんに面倒が振りかかるくらいなら、僕は何だって我慢する。我慢した方が、いい」
「それは決定事項なんですか」
「え?」
「俺に相談してるんだったら、却下です。せっかく気持ちが通じ合ったのに、何で我慢しなきゃいけないんですか」
 それはそうなのだ。今泉だってわかる。でも違う。何かあってからじゃ、遅いのだ。
 どうしてわかってくれないんだろう。
「修也くんほどの人間が、どうして僕の言っていることを理解してくれないんだよ。冷静に考えればわかることなのに。君は昔からそんなに聞き分けが悪かったかな」
「聞き分け良くできる内容ですか、今の話が」
「だから、君は子供だっていうんだ」
「あ、言ってはならないことを口にしましたね」
 ゆらり、と修也が立ち上がる。
「子供だから我慢できないんじゃない。好きだから、我慢できないんです」
 好きだから、我慢できるんじゃないか。そのセリフを今泉は飲み込んだ。
 何を言っても、今の修也を納得させるのは無理なような気がした。普段は大人顔負けの分別をわきまえてるような態度で過ごしてるくせに、この駄々のこね方はいったい何だというんだろう。
「…わかったよ」
 今泉だって修也と一緒にいたいけど、でも説得しなきゃいけなかったのに。
「ホントに…大人って損だよね」
「今泉さんが考えすぎなんです」
「そうは思わないけど、もういいよ」
「俺達、両想いの恋人同士ですよね」
 念を押すように、修也が言う。
 説得するのが無理だとわかってしまったから。もう他に選ぶ道は無いじゃないか。
「今泉さんは嬉しくないんですか」
「…嬉しいよ」
 不安だけれど。
 修也の端整な顔が近付いてきて、今泉は目を閉じた。


 修也の手が、今泉の身体に優しく触れていく。まるで存在を確かめられているようだと、今泉は思う。
 ベッドの上で、今泉も修也も素肌をあらわにして横たわっていた。
 こういう行為に慣れているわけではないので自然に身体は固くなるし、漏れそうになる声はなんとか喉の奥で殺そうと力んでしまう。
「っく…」
 肩や、胸や、腰や、足を、撫でられているだけなのに身体が熱くなってくる。
 こんな自分の姿を見て、修也はどう思うだろう。
「み、見ないで」
「それは無理です」
 修也はきっぱりと言った。
「それに今泉さん、声、出して。そんなに我慢しなくても。誰も聞いてないから」
「だってっ、修也くんが聞いて…あっ」
「俺に聞かせないで誰に聞かせるんですか」
「恥ずかしいんだ」
 そう訴えると、修也はギュウっと今泉を抱きしめた。
 身体が密着することによって、硬くなった修也の欲望が腰の辺りにあたり、今泉は更にうろたえる。
「ちょっと、ま、待って」
「俺は今泉さんとこうしていられて、夢のように嬉しいです。ずっと叶わないと思っていたことが現実になろうとしているんだから、隠さないでください」
 恥ずかしいセリフを真顔で言うのだ、修也は。
「ちゃんと感じてるって、俺にもわかるようにしてください」
「う…」
 そして修也は口唇を重ねてきた。
 サラサラとしたシーツに押し付けられながら、今泉は修也のキスを受け入れる。
「んっ」
 始めはぎこちなく応じていた今泉も、次第に固さが取れてくる。
 恥ずかしいことは恥ずかしいのだが、身体が熱くて、頭がボーッとして、修也から与えられる刺激に素直に身を委ねているのが、心地よくなってくるのだ。
 キスをしながら肌の上を這う修也の手のひらの感触は、今泉からどんどん理性を奪っていく。
「…は…あっ」
 喘ぎながら、しかしまだ今泉は声を漏らすまいと耐える努力をしていた。
「んっ」
 しかし今泉のそんな最後の努力も、身体の中心で熱く震えている昂まりに触れられた途端に無駄になってしまう。
「あぁっ」
 修也の手のひらが、今泉のそれを包みこむ。
「あっ、修也く…」
 無意識にその刺激から逃れようとする身体を、押さえつけられた。
「やっ、やだっ」
 ゆるゆると…修也の手が動く。
 それだけの刺激で、今泉は全身の血液が、修也に触れられているその一点に集中していくかのような感覚に陥った。
 恥ずかしいのに、気持ちよさが這い上がってくる。
 神経が焼き切れそうで逃げ出したいのに、もっと触れてほしくなる。
「…は…ぁっ」
 修也の手の動きには少しずつ力が加えられていく。次第に、激しく。ついには締めつけるように、しごかれる。
 その頃には今泉の先端から漏れ続ける液体が修也の手を濡らし、滑りが良くなっていた。
「あぁっ、…あっ、んっ…あっ」
 今泉は、もう声を殺そうなどという努力はとっくにあきらめていた。
 声をあげて、この熱さを少しでも身体の外に追い出してやらないと、すぐにでも昇りつめてしまいそうだった。
「しゅ、や…くんっ」
「今泉さん、すごい、色っぽい」
 修也の声は遠くから聞こえるようだった。
「俺、見てるだけでこんなに」
 ふいに修也の手が離れて、代わりにそこには熱く脈打つものが押し当てられた。
 お互いの昂まりが触れ合い、感じやすい部分同士がダイレクトに刺激を与え合う。
「あ…」
 グリ、と…今泉のものと修也のものが擦り合わされる。
「あぁっ」
 強い刺激が背筋を這い上がった。
 擦られる――修也の硬い欲望で。二度、三度、と擦られるたびに刺激が増す。
 修也が身体を動かすことで二人の昂まりは擦り合わされ、湿った音が部屋に響いていた。
挿絵
 お互いがお互いに刺激を与え、感じる、その行為の繰り返しに、二人は限界へと昇りつめようとしていた。
「も、だめ、修也く…」
 喘ぎながらやっとの思いで今泉が訴える。修也は何も言わなかった。
 何も言わないまま、更に強く、腰を押し付けてくる。
「あっ、あっ…あ…っ」
「今泉さん、俺も…」
「…あ、あ、ぁ――っ」
「…くっ」
 二人の身体の間に、お互いの白濁した液が吐き出された。

 そして多分、今泉はそのまま眠ってしまったのだと思う。気が付くと、隣りに修也が横になっていた。
 枕元の時計を見ると、もう夜中だった。
「目が覚めたんですか」
 眠っているように見えた修也が起きあがる。
「身体はいちおう拭いておきましたけど、シャワー浴びます?」
「え、あ、うん」
 何だかボーッとしたまま浴室に行った今泉は、シャワーのコックをひねりながら、長いため息をついた。
 ――やっちゃったんだなー。
 今まで抑えに抑えつけていたものを解き放って、妙に力が抜けた感じ。でも、それは我慢するのをやめた解放感からくるもので、温かい何かが心を満たしているのをぼんやりと感じる。
 最後までヤられたわけではないけれど、Hには違いない。ずっと好きで好きで好きだった修也と抱き合ったんだから、幸せに浸っていたかった。
 小さな棘みたいに引っかかってるものからは目を逸らして、世界中に自分と修也だけしか存在していないかのような気分に陥ったって、今なら許されるんじゃないだろうか。今まで我慢して手に入らないと思っていた幸せが、ここにあるんだから――。
 シャワーを頭から浴びて、さっきよりは幾分すっきりした顔で部屋に戻ると、ベッドの半分のスペースを空けて、修也が待っていた。
「さあ、寝ましょう」
 パムパムと自分の隣りのスペースと叩いてみせる。
 その場所に素直に潜り込むのは恥ずかしくて、気持ちとは裏腹な言葉を吐く。
「家に帰らなくていいの?」
「一日くらい、どうってことないです」
「それ、シングルベッドだし、狭くないかな」
「離れて寝る方が好きですか?」
「あ、う、うーん」
 今泉はモソモソとベッドに上がる。
「今泉さん、シャワー浴びて喉渇きませんか。冷蔵庫から何か取ってきましょうか」
 冷蔵庫に何かあっただろうかと思い出そうとした今泉の沈黙を、修也は何か勘違いしたらしい。
「あ、すみません。人の家の冷蔵庫を物色するなんて失礼ですよね」
「いや、そんなことを気にしたんじゃないよ」
「沙月がうちの冷蔵庫勝手に開けたりするから、つい」
 見ないようにしていた小さな棘が、チクリと今泉の心を刺す。
 自分達は温かくて明るい光に包まれていると信じていたいのに、前途に暗雲が立ち込めているような気がするのは、今泉の考えすぎなんだろうか…。

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